第二回「現代口語能」公演

新作能 大僧正 トマス・ベケット(日本語)

国立能楽堂(東京・千駄ヶ谷)

1997年3月14日(金)6:45〜8:30 pm

宗片邦義 作
津村礼次郎 改補・シテ

第二回「現代口語能」公演を1997年3月14日(金)
東京・千駄ヶ谷の「国立能楽堂」で開催しました。

 二十世紀最大の詩人T・S・エリオットの詩劇『寺院の殺人』(Murder in the Cathedral)を能に翻案いたしました。


 政治家と宗教家の対立を扱ったものです。
 英国王ヘンリー2世の遣わした暗殺者と知りながら、「ドアを開けよ。教会は全ての人々のもの」と司祭たちに命じて、結局殺害されてしまった、十二世紀英国のカンタベリー大寺院の大司教トマス・ベケットの最後を描いたものです。
 教会での大司教の殺人という血なまぐさい事件を扱ってはいますが、人間がこの世に生きるとはどのようなことなのか。シェイクスピア同様、エリオットも「生きる」ことの「悲しみ」「苦しみ」と「喜び」をうたっています。

 原作者T.S.エリオット(1888〜1965)は、アメリカ生れで、後に英国に帰化。詩集『荒れ地』『四つの四重奏』や詩劇『カクテル・パーティ』『一族再会』など、現代社会の荒廃と救いをテーマにした作品を多く書き、1948年ノーベル賞を受賞しました。

 若い頃から、仏教や能に関心を抱き、特にこの詩劇『寺院の殺人』は、能を意識して書かれたもののようです。彼は実際には一度も能を見たことはなかったのですが、能には最高といっていいほどの敬意を抱いていたようです。私はそれに注目し、エリオットのこの詩劇を能に創り上げたいと長年夢見てきて、今回の実現に至りました。
 そして、1998年7月8日には、当にベケットゆかりの地、カンタベリーのケント大学に招かれ、国際演劇学会(FIRT)において『能:トマス・ベケット』を公演しました。

 演者は、前回『能・オセロー』を演じて下さった観世流シテ方の津村礼次郎氏(シテ)を始め、安田登氏(ワキ)・大倉正之助氏(大鼓)・松田弘之氏(笛)その他一流の能楽師の方々です。
 能は優れた日本の伝統芸能でありながら一般に難解なものと思われています。しかし私は何よりも「分かり易く楽しめること」を大原則として来ました。「口語能」を試みたのもそのためです。
 英語能や、シェイクスピア劇と能の融合の試みも、実は同じ理由からなのです。英米人をはじめ多くの外国人には能の「幽玄の美」を、日本人にはシェイクスピアの「詩的感動」を分かり易く伝えたいと思い、能シェイクスピアの創作・公演を続けて参りました。



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