英語能・シェイクスピア能・現代口語能

上田(宗方)邦義
(静岡大学名誉教授)
日本大学大学院総合社会情報研究科教授




 この二十数年、日本の伝統芸能「能」と英文学の最高峰「シェイクスピア」を対等に、素直に結びつける試みに挑戦している。能の演技は写実的ではない。精神的な意味を象徴する動きを大事にする。詩的側面を強く持ったシェイクスピア劇の精神的な面を演ずるには、能の手法が最もふさわしいと考えている。
「リアリズムは愚か者のための手法」と言ったのは、アイルランドの詩人・劇作家、W.B.イエイツである。観客の自由なイマジネイションを尊重したい。能の簡素で暗示的・象徴的手法は、極めてすぐれた演出法である。その無駄のない動きは、抑制された厳かな謡いや、死者の霊を呼びたてているかの如き囃子の掛け声や笛の音などと相まって、詩劇の緊張感や宗教的とも言うべき深い芸術体験の実現に相応しい。
 あの一瞬の形の美しさ、気迫、一回性を尊ぶ一種の神秘主義、過去現在未来に対する時間的超越性、輪廻、再生の思想。シェイクスピアの二百年ほど前、十四世紀に、観阿弥(かんあみ)・世阿弥(ぜあみ)父子によって大成された「能」「能楽」という古典芸能を、私は「悟りの芸術」「救いの芸術」とみている。
 遠く離れた二つの文化が生んだ芸術の「魂」を融合させて、新たな芸術美ー詩的宗教的感動体験ーを生み出したい。能にある「悟り」「救い」の精神をシェイクスピアに溶け込ませ、優れた能を見たときに感ずる宗教的な感動を世界に知らせたい。そのためにシェイクスピアという素材を選んだともいえる。


これまでの主な活動を以下に記す。

T.創作公演・演出、講演など。




昭和48年8月
   〜50年5月


米国ハーバード大学フルブライト研究員(英米文学科)。この間フルブライト講師として、能についての講演。(米国・カナダの10数大学・劇場・美術館、アイルランド国立劇場アベイ・シアターなど)。





昭和49年9月
   〜50年5月



州立マサチューセッツ大学演劇学科客員講師(「能と禅」)。
英語能「羽衣」を指導・演出。またハーバード大学エマソン・ホール他で仕舞「ハムレットの独白」を英語で演ずる。


昭和50年1月
   〜50年5月
タフツ大学客員講師。実験大学で「能」の講座を担当。
日英二か国語の能「羽衣」を指導公演、ほか。



昭和53年7月
       〜8月

ハーバード大学、カナダ・ブリティッシュ・コロンビア大、メキシコ民族舞踊学院、その他7か所で、能について講演・デモンストレイション。


昭和56年5月

「能シェイクスピア研究会」略称NSGを静岡に結成主宰、英語謡曲の創作研究。





昭和57年3月




観世流の節付による新作「英語能・ハムレット」台本・節付、
完成、初演。静岡あなごや能舞台。出演NSG、演出・主役
(シテ)宗片、以下英語能は同じ。

昭和58年2月
「英語能・ハムレット」東京矢来能楽堂公演。




昭和58年5月



「南条・奥村能楽団」イギリス公演企画・制作。ブリストル、ロンドン、グラースゴウ公演。演出および講演(英語)。「英語能・ハムレット」を
各地で紹介。



昭和58年4月


同上能楽団のロンドン、サドラーズ・ウエルズ劇場、一週間公演企画・制作。演出および講演。BBCほかラジオ・テレビ出演。
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昭和59年5月

「英語能・ハムレット」発表、カナダ、ブリティッシュ・コロンビア大学。
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昭和60年3月

「英語能・ハムレット」国立能楽堂(東京・千駄ヶ谷)公演。
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昭和60年8月
      〜12月


フルブライト教授として、州立ネブラスカ大学演劇学科にて講義。また「英語能・ハムレット」演技指導し、大学劇場でアメリカ初演。演出・シテ4日間。
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昭和61年11月


「英語能・オセロー」
台本・節付、完成。醍醐荘能舞台で初演。
静岡県芸術祭奨励賞受賞。
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昭和62年4月

「英語能・オセロー」国立能楽堂(東京・千駄ヶ谷)公演。
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昭和62年11月


「英語能・マクベス」創作・初演。シテ(マクベス夫人およびマクベス)。醍醐荘能舞台。日本経済新聞社賞受賞。
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昭和63年5月
(1998年)
静岡県文化奨励賞受賞。

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昭和63年8月
       〜9月





「能シェイクスピア研究会」一行13名、アメリカ初演。「能オセロー」(全曲)、「能ハムレット」「能マクベス」(抜粋)。ウェズリアン大学、ハーバード大学、東西融合劇場、ブリガムヤング大学、カルフォルニア州立3大学など10か所。観客動員数約6千名。テレビ、ラジオ、新聞等報道。
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平成元年10月


「英語能・マクベス」公演。静岡八幡神社。静岡ケーブル・ネットワーク、全曲1時間半テレビ放映。
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平成2年5月

中世研究国際会議(ウエスタン・ミシガン大学)にて「能・ハムレット」発表。
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平成2年8月
       〜9月






文部省派遣在外研究員としてヨーロッパ(イタリア、スペイン、イギリス、スエーデン、デンマーク)・アメリカ合衆国へ研究・講演・公演旅行。「英語能ハムレット」ソロパフォーマンス(ストックホルム人形劇場,コペンハーゲン大学、ロンドン・シェイクスピア・グローブ・センター、ワシントン・フォールジャ・シェイクスピア研究所、その他)。
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平成3年3月



『英語能・ハムレット』HAMLET IN NOH STYLE:collected versions 1982〜1990(研究社出版)。約20年間の「英語能ハムレット」の研究成果を発表。
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平成3年8月


英語能ハムレット・ソロパフォーマンス
(於国立能楽堂研修能舞台、第5回シェイクスピア世界会議)
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平成4年8月
(1992年)

「日・英二か国語による能ハムレットの試み」
(修善寺あさば能舞台。新潟県佐渡・本間家能舞台)
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平成4年10月
(1992年)






公演「新作能・オセロー」(日本語)作・演出(初演)(宝生能楽堂 主催:朝日新聞社。観世流緑泉会公演、シテ・津村礼次郎。能楽師による我が国最初のシェイクスピア能公演。夏目漱石がシェイクスピア劇を能で上演したら面白かろうと「朝日新聞」紙上で提唱したのは、明治44年(1911)であるから、81年目に実現したことになる。
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平成4年11月4日
(1992年)
「尺八一管による英語能舞ハムレット」
(醍醐荘能舞台、初演、尺八:中村明一)
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平成5年10月7日
(1993年)

「英語能・リア王」試演会
(静岡あなごや能舞台、シテ:アダム・ブロノフスキー、作・演出 宗片邦義)
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平成6年2月
       〜3月
(1994年)
「英語能:ハムレット/リア王」
(シドニー日本センターほか、オーストラリア7大学、「リア王」 シテ:ブロノフスキー)
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平成6年5月
(1994年)
中世研究国際会議発表「能オセロー」
(アメリカ・カラマズー、ウエスタンミシガン大学)
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平成9年3月
(1997年)

「現代口語能」第一回公演・能オセロー。
(東京・宝生能楽堂、作・演出:宗方(上田)。
シテ:津村禮次郎。
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平成9年3月
(1997年)
『能:トマス・ベッケット』作・演出。国立能楽堂。シテ:津村禮次郎。
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平成9年10月
(1997年)
「Cross Culture:Noh Hamlet」レクチャーパフォーマンス。NY市立大学ブルックリン校。
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平成10年7月
(1998年)
『能:トマス・ベッケット』公演。英国カンタベリ・ケント大学。
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平成12年6月15日
(2000年)






講演「能狂言の現在と未来」
「英語能・ハムレット」独吟独舞
『能:オセロー』公演。シテ:津村禮次郎。
アイ:野村萬斎
『能・狂言の古典と新作』鼎談。津村禮次郎氏、野村萬斎氏と。
明星大学シェイクスピアホール。
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平成12年8月19日
(2000年)

『創作能:クレオパトラ』公演。原台本:上田邦義。能作・演出:津村禮次郎。演出協力:エドワード・ホール。新国立劇場。
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平成12年9月18日
(2000年)
講演 "Economics with Culture"
モンゴル国際商科大学     



U.主要著作

『ホッブズ』(『リヴァイアサン』永井道雄と共訳)
 (中央公論社「世界の名著」第23巻 昭和46年1月)

Keats’Love Letters『キーツ恋愛書簡集』(編著)
 (北星堂書店 昭和46年6月)

Selected Scenes from Shakespeare『シェークスピア名場面集』
 (北星堂書店 昭和54年3月)

『英語能・ハムレット』 NOH HAMLET
 (研究社出版 平成3年3月)

Essentially Oriental:R.H.Blyth Selection『R.H.ブライズ選集』
 (北星堂書店 平成6年4月)

『日英二ヶ国語による「能・オセロー」創作の研究』
 (勉誠社 平成10年2月)

論文『能と中国』 [中日文化集刊] 第一集
  (杭州大学出版社 1999年3月)


連絡先 E-mail:ueda@gssc.nihon-u.ac.jp